
Interview:向井太一

「ライブをすることで、僕自身、できる曲自体が変わってきたと思うんですよ。」
ーー今回のテーマは、「熱い瞬間」です。音楽のことでも、それ以外のことでもいいんですが、まずは向井さんにとっての「熱い瞬間」を教えてもらえますか? 僕の場合は、やっぱり「LIVE」しかないです(笑)。僕は普段はインドア派ですし、自分がいい意味でも悪い意味でも興奮するのは音楽なので。特にライブは色んなことを考えながら進めるスタジオでの作業とはまた違って、出来上がったものを最大にしていく作業ですし、お客さんもいるので、自分のテンションがトップになるのはライブですね。 ーーお客さんとしていったフェスと、自分が出演したフェスがあると思いますが、お客さんとして行ったフェスで思い出に残っていることはありますか? 正直に言うと、僕はもともとフェスにはあまり行ったことがなくて、去年は<サマソニ>にも出ましたし、<フジロック>にもシークレットで出演しましたけど(yahyelのDJセット)、どっちのフェスも初めてだったぐらいなんです。それまでフェスって体力的に厳しいイメージがあったので。でも、実際に行ってみると、想像していたよりもクリーンで楽しかったですね。知らないアーティストのライブに触れることもありましたし、音源では聴いていたけど「こんなに熱いライブをする人だったんだ!」と気付くこともあったり。特に、去年の<サマソニ>ではずっと聴いていたケラーニのライブを観られたのが嬉しかったです。会場はビーチステージで、当日は雨も降っていましたけど、周りの友達のミュージシャンもたくさん観に行っていて、ライブでのパワーを感じました。あとは、ヒョゴ(HYUKOH)のライブも観たんですけど、音源で聴くよりも熱いライブで、「やっぱりバンドなんだ」と思いました。「ライブがいいアーティスト」って、本当にいいアーティストということですよね。 ーーお客さんとしてフェスに行った際、向井さんはどんな風に楽しむことが多いですか? フェスによって変わりますけど、僕はやっぱり「音楽」が第1ですね。「音楽がなければフェスに行かなくてもいいんじゃないか?」というくらい、僕自身は音楽を聴きに行っているような気がするんです(笑)。もちろん、景色を楽しんだり、ご飯を楽しんだりと人によって色んな楽しみがあるとは思いますけど、僕自身が一番楽しみにしているのは音楽なので。僕は食べることもファッションも大好きですけど、そういうものとライブへの熱量って、またちょっと違う気がします。自分がライブをするときのことを考えても、あんな自分はなかなか他では出さないと思いますし。 ーーでは、向井さんが出演したフェスで思い出に残っているものというと? 去年の<サマソニ>に出演させてもらったときは、『24』をリリースしてからしばらく経っていて、でもまだ(デビュー・アルバムの)『BLUE』は出ていなかった頃で。あの時点では、会場にいるお客さんは「僕のことなんて知らないんじゃないかな?」と思っていたんです。でも、実際にライブがはじまってみたらたくさんの人が観に来てくれて、それがすごく印象的でした。去年僕が出演した「SPACE ODD」のステージは、マウンテンステージに隣接した通路にあったので、僕のことを知らない方々も聴いてくださったと思いますし、「ひとりひとりに訴えかけよう」という一生懸命な気持ちでやっていました。とにかく楽しかったです。 ーー最近の向井さんのライブを観ていると、お客さんとより向き合うような雰囲気になっていたりと、昔のものとはかなり変化している印象があります。そのきっかけになった出来事は何かあったと思いますか? それもライブでの経験だったと思います。ライブをすることで、僕自身、できる曲自体が変わってきたと思うんですよ。以前の僕は自分のことばかり歌っていたのに、ライブで色んなことを経験していく中で、最近は「誰かに対して歌う」という意識にどんどん変わっているのを感じていて。たとえば、昔の僕のライブ写真を見ると、当時は歌っている間もほとんど目をつぶっているんですよ(笑)。でも最近は、目を開いて、お客さんの方を観て歌っていることがすごく増えていて、「誰かに対して歌う」ことを、以前よりすごく意識するようになったと思います。その中で、ライブも曲作りもどんどん変わっていった感覚があります。

text&interview by Jin Sugiyama photo by 大石隼土
Copyright (C) Qetic Inc. All rights reserved.